SNSを開くたびに目にする「○○の法則」。トカラ列島で地震が続けば大地震の前兆、バヌアツで揺れれば2週間以内に日本も揺れる、トンガの噴火は南海トラフと連動している……。スクロールするたびに不安が積み重なっていく、あの感じ、よくわかります。
でも、ちょっと待って。「それ、証拠はどこ?」
今回は、SNSでくり返し拡散されるこれら3つの”法則”を、地震学者や研究機関の見解、統計データをもとに冷静に掘り下げてみます。不安を煽るためでも、むやみに否定するためでもなく、「実際のところ、どうなのか」を整理するのが目的です。
目次
「トカラの法則」とは?
「トカラ列島(鹿児島県)で群発地震が起きると、その後、日本のどこかで大きな地震が発生する」という説です。2011年の東日本大震災、2016年の熊本地震、2024年の能登半島地震のいずれも、直前にトカラ列島で群発地震が観測されていたことから、SNSで繰り返し話題になっています。
2025年6月〜7月にはトカラ列島で2,000回を超える有感地震が発生。過去最多規模の群発地震となり、「トカラの法則」はあらためてX(旧Twitter)やYouTubeで大量に拡散されました。
専門家はなんと言っているか
日本ファクトチェックセンター(JFC)は、東京科学大学の中島淳一教授(地震学)に取材。中島教授は「科学的根拠はありません」と明言したうえで、次のようなデータを示しています。
- 2000年以降、日本周辺でM7以上の地震は29回発生。
- 同じ期間にトカラ列島でM4以上の地震(群発を除く)は18回発生。
- 両者の時期が一致したのは、わずか2回(約11%)にすぎない。
つまり、10回のうち9回近くはトカラの地震と日本の大地震のタイミングは一致していないのです。熊本大学准教授の横瀬久芳氏(海洋火山学)も「トカラ列島付近で頻発する地震の規模はマグニチュードが比較的小さく、南海トラフ巨大地震などを誘発する可能性は考えにくい」と指摘しています。
2025年7月には気象庁の南海トラフ巨大地震検討会も「トカラ列島で発生している地震の規模では、四国や本州まで影響を及ぼすとは考えられない」と結論づけています。南海トラフ地震臨時情報が発令される基準はM7以上ですが、トカラの群発地震は最大でもM5.6程度にとどまっています。
なぜ「法則のように見える」のか
鹿児島大学の中尾茂教授は「日本全体が地震多発地帯。法則のように見えても根拠のない偶然」と述べています。実際、気象庁データでは1951年以降のトカラ近海の地震群89件のうち、収束後1カ月以内に国内でM6以上・震度5弱以上の大地震が起きたのは36件。「半数近くで当たった」とも読めますが、逆に言えば「外れた」ケースも同程度あり、しかも東北や熊本はトカラ列島と地理的にまったく別の断層系です。
心理学では、大きな出来事のあとに「そういえばあのとき不思議なことがあった」と過去に意味を見出す傾向を「後知恵バイアス(hindsight bias)」と呼びます。トカラ列島は地震が多い場所、日本も地震が多い国。このふたつが重なれば、探せば「一致」はいくらでも見つかります。
「バヌアツの法則」とは?
「南太平洋のバヌアツ共和国周辺でM6以上の地震が起きると、2週間以内に日本でも大きな地震が発生する」という説です。1990年代にインターネット上で紹介されて以来、大地震のたびに注目を集めてきました。
過去の事例として引用されるものに、以下のようなものがあります。
- 2016年4月:バヌアツでM6.9 → 11日後に熊本地震(M7.3)
- 2018年8月:バヌアツでM6.7 → 15日後に北海道胆振東部地震(M6.7)
- 2021年2月:バヌアツでM6.9 → 3日後に福島県沖地震(M7.3)
確かに並べると「できすぎ」に見えます。ここに引っかかる感覚自体は、まったく不思議ではありません。
科学的な検証結果
地震学的に言うと、バヌアツと日本は地理的に約7,000km離れており、それぞれ異なるプレート(バヌアツはニューヘブリデスプレート、日本はオホーツク・アムールプレートなど)上に位置しています。京都大学の加藤護准教授は、国際地震センター(ISC-GEM)の震源データを使った統計分析を日本地震学会誌に寄稿し、「バヌアツ地震が日本の地震の発生に影響している証拠はない」と結論づけています。
東京大学地震研究所の古村孝志教授も「6,500kmも離れた場所の地震が日本に与える影響は限りなくゼロ。どちらも地震が多い国なので、偶然が重なると不安感から結びつけて考えがちになる」と説明しています。
バヌアツ諸島はほぼ毎月のようにM6以上の地震が起きており、日本もほぼ毎年M7以上の地震が起きます。頻度が高い現象同士を並べれば、統計的に「一致」は偶然でも起こります。これを心理学では「錯誤相関」と呼びます。
「トンガの法則」とは?
2022年1月に発生した南太平洋トンガ沖のフンガ・トンガ=フンガ・ハアパイ火山の大規模噴火をきっかけに、「トンガで噴火・地震があると日本で大地震が起きる」という説がSNSで広まりました。バヌアツの法則と混同されて語られることも多く、「トンガ=バヌアツ法則の拡張版」として扱われるケースも見られます。
トンガ噴火で実際に起きたこと
2022年1月の噴火は確かに前例のない規模のものでした。噴火に伴い「ラム波」と呼ばれる大気の波が地球を複数周し、その影響で日本を含む太平洋沿岸に通常より速い津波が到達しました。防災科学技術研究所と東京大学地震研究所の共同研究により、このラム波が通常の地震津波とは異なるメカニズムで地球規模の津波を引き起こしたことが、学術誌「Science」に掲載されています。
ただし、これはあくまで「火山噴火による大気波動が津波を生む」というメカニズムの話であり、「トンガで噴火が起きると日本で地震が誘発される」という話とは別物です。
現時点での地震科学の知見では、7,000km以上離れた地域の地震や噴火が、別の地域の大地震を直接誘発するとは考えにくいとされています。なお、「トンガの法則」という名称自体は学術的な用語ではなく、SNS上で生まれた俗称であり、専門家が言及した査読済み論文も現時点では確認されていません。
なぜこれらの”法則”は何度も拡散されるのか
科学的根拠がないと何度否定されても、地震のたびに復活して拡散される。これにはいくつかの構造的な理由があります。
① 日本は「地震が多すぎる」国
年間にM7以上の地震が平均1回程度、M6以上なら数回以上起きる日本では、「何かが起きた直後に地震が来た」という組み合わせはランダムに並べても高確率で作れます。これはバイアスではなく、単純な確率の問題です。
② 人間は「パターン」を見つけたがる
人間の脳は、不確実な状況でも「因果関係」を見出そうとする本能があります。特に「大きな災害が来るかもしれない」という恐怖状態にあるとき、この傾向は強まります。
③ SNSのアルゴリズムは「不安」を増幅する
恐怖・不安・驚きを喚起するコンテンツはエンゲージメント(いいね・シェア・コメント)が高く、アルゴリズムによって優先的に表示されます。「法則なんてない」という冷静な記事より、「これは前兆かもしれない」という不安を煽る動画のほうが、仕組み上バズりやすいのです。
「じゃあ、どうすれば?」——不安を”行動”に変える防災の話
ここまで読んで「法則に根拠はない、でも地震大国に住んでいることは事実」と感じた方、その感覚は正しいです。大切なのは根拠のない情報に振り回されることではなく、いま確実にできる備えをすること。不安エネルギーを、ここからの行動に変えてみましょう。
まず「0円防災」から始める
お金をかける前に、今すぐできることがあります。
- ハザードマップを確認する:自治体ホームページで自宅周辺の洪水・土砂崩れ・津波リスクを把握する(無料)
- 家族の集合場所を決める:「学校の体育館前」など、連絡が取れなくなったときの待ち合わせ場所を共有する
- 家具の転倒防止を確認する:地震による死傷原因の約3〜4割は家具の転倒・落下。突っ張り棒や固定金具を見直す
- スマホに緊急速報・防災アプリを入れる:「Yahoo!防災速報」「NHKニュース・防災」など
持ち出し用「防災リュック」に入れておきたいもの
避難所に向かうとき、両手を空けて逃げられるリュック型がベストです。一人あたり最低1個、中身は1〜3日分を目安に準備しましょう。
- 飲料水(500ml〜1L):まず命をつなぐ最優先アイテム。ペットボトルを複数本
- 非常食(1〜3日分):カロリーメイト、アルファ米、栄養補助バーなど軽くて日持ちするもの
- モバイルバッテリー(大容量):スマホは情報収集・連絡・ライト代わりと命綱。容量Simplicity | 内部SEO施策済みのシンプルな無料WordPressテーマSimplicity | 内部SEO施策済みのシンプルな無料WordPressテーマSimplicity | 内部SEO施策済みのシンプルな無料WordPressテーマ20,000mAh以上が安心
- ヘッドライト(LEDタイプ):両手が使える懐中電灯。電池式とUSB充電式の両方に対応しているものが便利
- 簡易トイレ(10〜15回分):避難所では断水・トイレ混雑が頻発。見落とされがちだが実際の被災現場では最も求められる物資のひとつ
- 救急セット・常備薬:処方薬がある方は余分に確保を。お薬手帳のコピーも一緒に
- 現金(小銭含む):停電時はATMもキャッシュレスも使えない。1万円分程度を小銭込みで
- 雨具・防寒アルミシート:季節問わず低体温症・雨対策に
女性・育児世代に特に必要なもの
市販の防災セットには入っていないことが多いので、自分でプラスしておきましょう。
- 生理用品・吸水ショーツ(ほかのもので代用できないため最優先)
- 着替え用のラップタオル・ケープ(避難所では着替えスペースがないことも)
- おむつ・粉ミルク・哺乳瓶(乳幼児がいる場合)
- 抱っこひも(両手が使え、逃げやすい)
自宅備蓄:「ローリングストック」が最強の備蓄法
防災グッズは「買ったら終わり」ではなく、賞味期限切れで捨てることになりがちなのが悩みどころ。そこでおすすめなのが「ローリングストック法」です。
普段から少し多めに食料・水を買っておき、古いものから使いながら補充していくだけ。特別な備蓄意識がなくても、自然と「常に数日分の食料・水がある状態」を維持できます。目安は一人あたり水3L×3日分、食料は3日〜1週間分です。
あると一段上の備え:ポータブル電源
停電が続く状況で大きな安心感をもたらすのがポータブル電源です。スマホやラジオの充電はもちろん、容量が大きいものなら電気毛布や炊飯器なども使えます。容量500Wh以上のものを選ぶと、スマホを数十回充電できる計算になり、数日間の停電にも対応できます。防災用に購入した後もキャンプや車中泊に活用できるので、コストパフォーマンスも高いアイテムです。
信頼できる情報源はここ
- 気象庁(jma.go.jp):地震情報・南海トラフ地震臨時情報の公式発表
- 日本ファクトチェックセンター(JFC):地震関連デマの検証を随時実施
- 地震調査研究推進本部(jishin.go.jp):各地の地震発生確率を公開している政府機関
- 内閣府 防災情報のページ(bousai.go.jp):防災グッズの公式チェックリストあり
まとめ
「トカラの法則」「バヌアツの法則」「トンガの法則」の3つは、いずれも現時点の地震科学においては科学的根拠がないと複数の専門家・研究機関が明言しています。
それぞれの地域が地震や火山活動が多い場所であること、日本も地震が多い国であること、そして人間がパターンを見出したがる認知特性——これらが重なって「法則」のように見えているのが実態です。
ただ、「不安になる気持ち」はまったく正常です。そしてその不安は、使いようによっては「今すぐ防災リュックを見直す」「水の備蓄を増やす」「ハザードマップを確認する」という具体的な行動のエネルギーになります。
次にSNSでこれらの法則を見かけたとき、「証拠はどこ?」と一度立ち止まって考えてみてください。そしてその5分を、備えを確認する時間に使ってみてください。それが、情報との一番健全な付き合い方だと思います。

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